Jun 3, 2013

ワシントンDC・スミソニアン博物館での新発見

ワシントンDCのスミソニアン博物館には、なんと"炊飯器"が展示されていました。外国の博物館に炊飯器だなんて想像つきますか?アメリカ史博物館/National Museum of American Historyは、航空宇宙や自然史博物館に比べると遥かに外国人向けではありませんが、自国の歴史をどう語るか?そしてどう展示するか?という課題を考えるには、国籍を問わず、なかなか参考になるのではと思いました。
多くの学生達で賑わう博物館です。数多くあるスミソニアンの中でも、特に学生達の教育に適した博物館であることに違いはありません。もし自分が、アメリカ国籍ではない、そして学生でもなかったとしても、場違いな博物館だと思うことはありません。少なくとも、日本人にとって、太平洋戦争のコーナーは印象的です。自分のような20代の人間にとって、数十年前でありながら、遠い南方の地で、自分に近い年齢の人間が頭を垂れ下げている写真を眺めることは忘れることができない体験になるはずです。

もちろんこうしたシリアスな学習もできますが、他の博物館に例を見ない展示は、アメリカ食文化に関する展示。食文化の歴史とは、あまりにも日常的なテーマであるが故に、なかなか他の博物館で見ることはありません。そして外国人にとって、アメリカの食文化と言った所で、果たして語るに値するものがあるのかという疑問が思い浮かびます(時として、自国の食文化を崇め奉ろうとする偏狭なコマーシャリズムによって、アメリカ食文化は底辺に落とされる運命にあるのです)。しかしそうした人は、アリスウォーターズに代表される素晴らしい理念と信条を持ったアメリカ人の存在を知らないのです。

そうした点において、スミソニアンのアメリカ食文化コーナーは私達の期待を裏切ります。もちろん、大量消費文化・商業主義に徹したアメリカ食文化の功罪がまず語られています。アメリカ食文化を楽しげに批判する人々の期待に答えられるよう、コストコのカートですら展示されていました。私達が忌み嫌うべきものとして、紹介されています。それでも私達が注目すべきは、"カウンターカルチャー/Counter Culture"のコーナー。1960年代以降の革命的な動き、そしてヨーロッパを含め、国外の食文化に触れる中、革新的ながらもアーティサナルな食を求める人々が登場するのです。そうした中、彼らに愛された道具の一つが、日本が世界に誇る炊飯器であったのです。 日本が自国文化を"クールジャパン"と言い出す以前から注目されていたという事実の方が、遥かにクールだと思います。
 何よりも印象的なのが、アリスウォーターズ、そしてバークレーの食文化。バークレーというサンフランシスコ・ベイエリアの一地方の文化・社会運動がワシントンというナショナルな舞台で、文化・歴史として昇華されている。国家レベルでこうしたストーリーを作り出すアメリカの力には感心します。よく見てみてください。アメリカ食文化は不健康で、文化と語るに値しないという、例の偏狭な思い込みが打ち消されていきます。もちろん、バークレーフードミラミッドを眺めた所で、こうした食べ物はさして重要ではありません。多少の皮肉を交えているのかも知れませんし、より重要なことは、決して豊かとは言えない人々に、脂肪と炭水化物に頼らない、新鮮で豊かな食事が手に入りやすくなるようにすることです。

しかし、大量生産により工業化された食文化を極めつくしたアメリカ。その一方で、どこまでもアーティサナルな食文化を追い求めるアメリカ。私達が想像している以上により深くて鮮明な方向性を追い求めることが根付いている社会であることに気が付かされます。そして何よりも、外国人含め、ありとあらゆる人々に、こうした歴史と姿勢が、現代アメリカが歩み続けている道であるのだと意識させる、その力強さと、計算と思慮に富んだ懐の広さに驚かされたのでした。

ワシントンDCのまとめページです。ご参考にどうぞ。
http://mytkychronicle.blogspot.jp/2013/07/dc_17.html

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