・ファーマーズマーケットで「地域活性化」する必要がある程、そもそも日本の社会はそこまで荒廃していない。
ファーマーズマーケットは「地域活性化」に欠かせないイベントであり、道具です。しかし「活性化」とは地域の賑わいや経済効果を期待するものである以上に、地域の更正、荒廃からの復帰という、より政治的な使命を帯びているものを意味します。時には宗教的・教条的とさえ感じさせる緊張感と勢いも必要です。その為には、活性化の為に労力の注ぎがいがある程の徹底的に荒廃した社会が必要です。そして荒廃/活性化の対立軸において、それぞれの状態を作り出す要素(地域住民)が徹底的に異なる性質を帯びていることが欠かせません。幸いにも日本にはここまで徹底した社会的な対立状況は表面化していません。表面化していないことが問題ということではなくて、そもそもの対立の度合いが比較的浅いということです。
結局ファーマーズマーケットは、ジェントリフィケーションを引き起こすための道具の一つと言えるかも知れません。比較的裕福で文化・教育水準が高い人達がファーマーズマーケットの会場に集うことで、世帯収入・人種構成の面で地域の雰囲気が変わっていくのです。その結果、取り残される人達が生まれ、負の側面が生じるのは事実ですが、プラスの経済循環が生まれ、ひいては税収につながる効果も否定することは出来ません。
それでは、どんな人々が訪れているのでしょうか。新鮮な野菜を親に食べさせてもらえる幸せな子供の写真です。子供に野菜を食べさせたいのに、なかなか食べてくれないという悩みは一般的ですが、そもそも、食べさせることが出来ないのだとしたら、より一層深刻な問題です。野菜は、肉や穀物、加工食品のようには簡単に大量工業生産が出来ないので、概して値段が高くなりかねません。自ずから1カロリー当りの値段も高くなります。健康的な食生活を送るためには、比較的豊かな収入が必要になるとは、皮肉な話です。炭水化物と脂肪に頼らない栄養摂取は重要な課題なので、手頃に野菜を食べられるようになるべきですが、金銭的な問題があるのです。そして人々の趣向の問題。炭水化物と脂肪の比重が大きい食生活と、彼らの趣向とを結びつけて、貴賎を論じることが出来るのか。いずれにせよ、野菜・炭水化物・脂肪のどれでも好きに取れるだけの選択肢が用意されるべきでしょう。その点、ベジタリアンチョイスが比較的豊富なアメリカはよいなと思います。
・彼ら自身で集団を結成した時のアメリカ人の意志と行動は徹底的。
ファーマーズマーケットの運営団体はユニークです。まずは構成メンバー(ボードメンバー一覧)。市職員(ポートランド市住宅局)とランドスケープカンパニーのメンバーが参加しています。法律や規則といったテクニカルな面の運用は重要なので行政の参与が必要なのはもちろん、民間業者であるランドスケープカンパニーも参加することが、「活性化」の為に必要とされる原動力をもたらしているはずです。彼らにとって有益でなく、価値もないことを民間業者が行う理由はありません。資本主義の理論が染み渡っているのです。日本風に言えば、行政・不動産デベロッパー(更に私鉄の鉄道会社?)が皆で運営しているイメージでしょうか。やはりプロ集団の力が必要です。特にマーケティング技術と志向。理念は大事ですが、本当に理念を実現するためにはプロ集団の技術と、資本主義と収益性に裏づけられたパワーが欠かせないのです。
そして参加農家に求められるルールもストリクト(ベンダーになるための条件)。これは本気です。誰が決めたか分からない、漠然と決められた規則に結局は従っているという曖昧なものではなく、自分達で決めた厳しいルールを互いに守り、参加者にも課すというダイナミズムがたまりません。
最後に。
地域を更正する。人々の味覚を更正する。そして人々の音楽に対する感性を更正する機会をも与えてくれます。オートチューンに毒された耳を癒す為のバンド達が会場には数多くいました。オールドタイムやブルーグラスのバンドが多かったです。爽やかで明るい、落ち着いた初夏のポートランドにぴったりの音楽。気持ちよかったです。
それにしても、アメリカが本気で社会的な運動、行動を起こした時の迫力と気合には追いつくことが出来ません。日本がポートランドのファーマーズマーケットから学ぶものがあるとすれば、ファーマーズマーケットは決して牧歌的なものなのではなく、技術的(マーケティング、自主ルールの作り方)なプロ集団の力が必要なのだということ。そして新鮮な野菜、健康的な生活を掲げ、人々を啓蒙するという教条的な思想と、資本主義(民間業者や行政を巻き込むための理由)が高度に結びついた舞台であるということを知る必要があるでしょう。それでも、スーパーに行けば新鮮な野菜が手頃な値段で十分に買える国であっても、面倒くさいことをしてまででも、彼らのファーマーズマーケットを真似てみる価値は十分にあると信じます。
難しい話はさておき、おすすめのショップ&食べ物はこちらから。
おいしい食べ物自体はもちろん、気候も会場の雰囲気も全てが最高でした。
「ポートランド・ファーマーズマーケットで見つけたおすすめ」
http://mytkychronicle.blogspot.jp/2013/10/12.html
ポートランドのまとめです。ご参考。
http://mytkychronicle.blogspot.jp/2013/11/blog-post_4735.html